2023年の9月に開催された『住友生命Vitalityレディス東海クラシック』にて、馬場咲希選手(当時アマチュア)が、「動かせない障害物からの救済」の処置ミスでペナルティを受けた。完全な救済のニアレスポイントを決める際に使ったクラブが違っていて、決定したニアレスポイントが間違っていた為(カート道路の逆側に基点を作ってしまった)、誤所からのプレーで2罰打が課せられた(2ホールで行い、2罰打×2ホール=計4罰打)。
ゴルフダイジェストのWeb記事(2023/09/17)
https://news.golfdigest.co.jp/news/jlpga/article/160596/1/
このニュースを聞いて、『使用するクラブが違って、2回も逆側にニアレスポイント取れるのか?』と少し疑問に思い調べてみることに。またカート道からの救済について聞かれることも多いので(誤って理解している人もいるので)、ゴルフ規則片手に改めて図を作って整理してみた。
■カート道からの救済方法 (ゴルフ規則16.1 異常なコース状態からの救済 P143)
プレーヤーのボールが、カート道路上に触れていたり上にある場合、またはスタンス区域や意図するスイング区域の物理的な障害となる場合、罰無しの救済を受けることができるとある。
カート道路の救済は、少しゴルフをしていればよく遭遇することなので、知っている方も多い。
ではどこへ救済することが認められるのか?
まずは救済エリアを決めるための基点を決める。基点は完全な救済のニヤレストポイント。そして救済エリアのサイズは、基点から1クラブレングス(パターを除く一番長いクラブ)※但し、ホールに近づかず、カート道路からの完全な救済でなければならない。※以下の図(図16.1a)参照
この辺りであいまいになりやすいのが、完全な救済のニヤレストポイントと1クラブレングスという言葉の意味。この言葉の定義はゴルフ規則に記載されています。
■クラブレングス(ゴルフ規則 Ⅹ定義 P226)
ラウンド中にプレーヤーが持っている14本(またはそれ以下)のクラブのうち、パター以外で最も長いクラブの長さ。ティーイングエリアや救済エリアを決める時に使用する。
大体のプレーヤーはドライバーになるのでしょうね。
■完全な救済のニヤレストポイント (ゴルフ規則 Ⅹ定義 P224)
この定義には『この基点を推定する時には、プレーヤーはそのストロークで使用していたであろうクラブの選択、スタンス、スイング、プレーの線を特定する必要がある』とある。
したがって、残り距離に対してカート道路が無ければ使っていただろうクラブを選択して、スタンスやスイングの邪魔にならない場所(完全な救済のニヤレストポイント)を決める必要がある。
ニュースなどからすると、ペナルティとなったのは14番と15番ホール。ニヤレストポイントを決める際、14番ホールでは7番アイアンを使用する状況だったのにドライバーを使い、また15番ホールも残り30Yの地点でドライバーを使ってしまったため、誤った場所を基点としてしまった。どちらも、正しいクラブを使っていれば、カート道路の左側ではなく、右側が救済エリアになっていたとのこと。
おそらく馬場選手は、救済エリアのサイズを決める1クラブレングスのクラブ(パター以外の一番長いクラブ)と、基点を決める時のクラブ(カート道路がなければ使用していたであろうクラブ)を勘違いしていたものと考えられる。
しかし、使用するクラブが変わるとニヤレストポイントが変わるのだろうか?と当初の疑問がまだ残っている。ということで、新たに後方から見た図を作ったので、ケース別にニヤレストポイントがカート道路の右側なのか左側なのか、確認してみよう。
<前提条件>
・私のアドレズ時の【かかと~クラブ先端(1Wで125㎝、PWで85㎝)】サイズを参考に図を作成しています。
・カート道路も不明なのでちょっと広めの200㎝。
・クラブヘッドの中心からトゥ側までも5㎝で固定。
・移動する数値は障害物ピッタリで算出しています(実際はストロークに支障がない場所まで、もう少し離れます)
■ケース1
私がPW(ピッチングウェッジ)を使う距離(120Y程度)で、カート道の中心にボールが止まっていた場合の対応。
図のように、左側の方が近いので基点(ニヤレストポイント)となる。
■ケース2
私がPWを使う距離で、カート道の右側から道幅の1/4(50㎝)にボールが止まっていた場合。
図のように、右側が近いのでニヤレストポイントになる。
■ケース3
ドライバー(1W)が使える残り距離で、ケース2と同様カート道の右側から道幅の1/4(50㎝)にボールが止まっていた場合。
左側が近いのでニヤレスポイントになる。
つまり、ケース2・3のようなカート道路の位置に止まっている場合は、使うクラブによってニヤレストポイントが右と左で入れ替わってしまう場合があるのだ。(どっちか迷うこともありますが、プライベートラウンドではプレー進行も考慮し、上記の判断基準で大体の見た目で判断することになるでしょう)
さて、使用するクラブが変わるとニヤレストポイントが変わってしまうことがある、ということは分かったが、実際はどうだったんだろうか?
カート道路の救済を受ける際、ボールはカート道路の端でとまっていることが多い。先の図の200㎝幅の道路なら、右左の判断に迷うことはないはずなのだが。(いくらクラブが違っても、右端なら右、左端なら左になるはず)
『住友生命Vitalityレディス東海クラシック』を開催していた新南愛知カントリークラブ美浜コースを調べてみると、どうやら電磁誘導カートを採用しているコースのようだ。
この画像を見る限りカート道路は、2本タイヤ幅だけが設置されていて、道幅も狭い(自動運転なのでギリギリで施工している)。秋田カントリー倶楽部さんがこのタイプ。全幅でもおそらく130㎝~150㎝程度。馬場選手のボールが外側(右側)の道路に止まっていた場合、馬場選手の身長(175㎝と私よりも高い)と手の長さからして、ドライバーを使用して基点を決めると、内側(左側)になる場合もありえるだろう。(あくまで推定ですが)
と、長々書きましたが、ここまできてようやくニュースに対する疑問もスッキリ(勝手に)。
プライベートのラウンドで、詳細を求められることは無いと思いますが、ニヤレストポイントの決め方によってはライが全然違うことがあります。しっかり覚えて、堂々と有効に救済を受けましょう。